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旧主人

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旧主人

Von: 島崎 藤村
Gesprochen von: 三浦 貴子
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Über diesen Titel

島崎藤村(本名春樹)は、明治学院在学中にキリスト教に入信し、西洋文学に影響を受け、北村透谷らと雑誌「文学界」を創刊しました。それまでの和歌や俳句などの定型詩や漢詩とは異なる新しい文体の詩人として出発し、近代詩を確立していきました。その後、小説執筆へと転じ、あるがままの現実を描き、且つ人間の内面を正直に描くという、写実主義と浪漫主義の両方を併せ持った自然主義文学の代表的な作家となりました。

また、在籍期間は短かったものの、東京音楽学校にてヴァイオリン、ピアノ、コーラスを学んだという経歴も持っており、音楽に関する知識も豊富だったことがうかがえます。出会った人物から様々な影響を受け、新しいものに対する情熱と探求心を常に持ち、それが創作の糧となっていたのでしょう。

1913年から3年間渡仏した際には、日本に残してきた4人の子どもたちに土産話として聞かせるために童話集をまとめており、たくさん版を重ねていることから、いかに読まれてきたかをうかがい知ることができます。

今でこそ私もこんなに肥ってはおりますものの、その時分は瘠ぎすな小作りな女でした。ですから、隣の大工さんの御世話で小諸へ奉公に出ました時は、人様が十七に見て下さいました。私の生れましたのは柏木村――はい、小諸まで一里と申しているのです。

柏木界隈の女は佐久の岡の上に生活を営てて、荒い陽気を相手にするのですから、どうでも男を助けて一生烈しい労働を為なければなりません。さあ、その烈しい労働を為るからでも有ましょう、私の叔母でも、母親でも、強健い捷敏い気象です。私は十三の歳から母親に随いて田野へ出ました。同じ年恰好の娘は未だ鼻を垂して縄飛をして遊ぶ時分に、私はもう世の中の歓しいも哀しいも解り始めましたのです。
吾家では子供も殖る、小商売には手を焼く、父親は遊蕩で宛にもなりませんし、何程男勝りでも母親の腕一つでは遣切れませんから、否でも応でも私は口を預けることになりました。その頃下女の給金は衣裳此方持の年に十八円位が頂上です。然し、私は奥様のお古か何かで着せて頂いて、その外は相応な晴衣の御宛行という約束に願って出ました。

金銭で頂いたら、復た父親に呑まれはすまいか、という心配が母親の腹にありましたのです……©2022 panrolling
Literatur & Belletristik
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